骨董商がよく云う台詞のひとつに「これ(本当は)売りたくないんだよねー」というのがあります。
まぁ、気持ちは解ります。
おそらく二度とお目にかかれないものか、よほどの愛着のあるものかのどちらかでしょう。両方というのも考えられます。
骨董商なんてもんは物フェチですから、商品に対する思い入れは人一倍です。ただ、物によってはお客さんの方が物フェチ度合いの熱量が高い場合があり、そういう方への対処としてこの手の文言を遣う場合があることを忘れてはいけません。今でいう、マウントの取り合いですね。
商品ですから、売ることが前提で、売ってゆかなければ商売(生活)が立ち行かなくなりますので、こういった台詞はどちらかと云えば仕込杖のようなものです。
そう云われて嫌な気がするお客さんはまずいません。自分の鑑識眼を褒められたようなものですから。骨董を贖うお客さんの約9割は、目利きのバッヂが欲しいのです。
売る気のない骨董商はいないと思います。たまにこの人、売る気あんのかなー、と思われるような人もいますが、たいていはただのポーズ、カッコつけです。
売る気があって、売りたくないとはこれいかに。
要は売りたいんですよ。売りたくてたまらないんです。
ただ、お客さんの云い値では売りたくないだけなんです。ごくまれに、あんたみたいな人には売りたくないな、という意味合いもなくはないのですけど、お客さんを撰ぶ骨董商の末路は知れています。 お客さんは骨董商が撰ぶのではなく、商品が撰ぶのですから。
骨董市では、骨董商が売りたくないものをぜひ見つけてください。同時に、売りたくないんだよなー、と云われたらなるべく素直に受け取ってください。
腹の探り合い(値段交渉)は骨董市のお約束、あって当然ですが、ほどほどに。
気持ちよく売りたいですし、買いたいですよね。